骨が少なくてもインプラント治療は可能?「ザイゴマインプラント」の可能性と注意点
Al-Nawas B, et al. ITI consensus report on zygomatic implants: indications, evaluation of surgical techniques and long-term treatment outcomes. International Journal of Implant Dentistry. 2023;9:28. https://doi.org/10.1186/s40729-023-00489-9

上顎の骨が大きく失われている場合、通常のインプラント治療が難しくなることがあります。骨を増やすための骨造成手術が必要になったり、従来の方法ではインプラントを埋入する十分な骨が確保できなかったりするためです。そのような症例に対する選択肢の一つが、ザイゴマインプラント(頬骨インプラント)です。2023年、インプラント治療に関する国際的な専門組織であるITIは、ザイゴマインプラントについて、適応症、手術方法、長期成績などを検討したコンセンサスレポートを発表しました。今回は、その報告をもとに、この治療法の特徴と注意点をご紹介します。
1.ザイゴマインプラントとは?
通常のインプラントは、顎の骨に埋め込み、骨との結合によって人工歯を支えます。しかし、上顎の骨が著しく吸収している場合には、通常のインプラントを安定して埋入することが困難です。ザイゴマインプラントは、上顎の骨だけでは十分な支持が得られない場合に、頬骨を固定源として利用する非常に長いインプラントです。
主な対象となるのは、上顎の骨が高度に吸収した方、過去のインプラント治療や骨造成がうまくいかなかった方、腫瘍切除や外傷などによって上顎の骨が失われた方などです。
2.長期的な治療成績は?
観察したザイゴマインプラントは平均約6.3年で、その間の平均生存率は96.2%でした。これは、ザイゴマインプラントが、上顎の骨が著しく少ない患者さんに対して、長期的な治療選択肢となり得ることを示しています。また、報告では、適切な初期固定が得られることを条件として、インプラント埋入後に早期に歯を装着する「即時荷重」の成績が、治癒期間を設ける方法よりも高い傾向にあることが示されました。
ただし、これらの数値は研究全体の結果であり、個々の患者さんに同じ成績が保証されるわけではありません。インプラント自体が残っていることと、人工歯が長期間問題なく機能することも、区別して考える必要があります。
3.注意すべき合併症は?
一方で、ザイゴマインプラントは高度な外科的技術を必要とする治療です。通常のインプラントと同様に、また症例によってはそれ以上に、術前の診断と術後の管理が重要になります。
コンセンサスレポートで特に注意が必要とされた合併症の一つが、上顎洞炎(副鼻腔炎)です。報告では、平均約5.5年の観察期間における上顎洞炎の発生割合は14.2%でした。上顎洞炎が生じた場合、抗菌薬などによる治療が行われますが、改善しない場合には追加の外科的処置が必要となります。状況によっては、インプラントの喪失につながる可能性もあります。そのほか、インプラント周囲の軟組織の感染、口腔と上顎洞の交通、人工歯を支える部品の緩みや破損、人工歯の材料の欠けなどにも注意が必要です。
4.ザイゴマインプラントを選ぶ前に考えること
ITIの報告が強調しているのは、ザイゴマインプラントを単に「骨が少ない場合の便利な治療」として捉えては危険ということです。骨の状態や上顎洞の健康状態を把握するため、CTや歯科用CBCTなどによる三次元的な評価が推奨されています。そのうえで、骨造成を伴う通常のインプラント、短いインプラント、傾斜埋入など、ほかの治療選択肢との比較が必要です。また、外科手術だけでなく、装着する人工歯の設計、噛み合わせ、清掃のしやすさ、長期的な管理まで含めて計画しなければなりません。治療の複雑さや起こり得る合併症について、患者さん自身が十分に理解しておくことも大切です。
まとめ
ザイゴマインプラントは、上顎の骨が著しく少ない方や、従来のインプラント治療が困難な方にとって、選択肢となり得る治療法です。
一方で、上顎洞炎などの合併症や、長期的なメインテナンスの必要性を忘れてはいけません。大切なのは、ザイゴマインプラントを行うこと自体ではなく、その方にとって本当に適した治療法かどうかを見極めることです。
上顎の骨が少ないと診断された場合でも、治療の可能性が一つに限られるとは限りません。骨の状態や全身の健康、希望される治療内容を踏まえ、複数の選択肢を比較しながら慎重に検討することが重要です。
岡山ヒルトップ歯科の考え方
ザイゴマインプラントは、上顎の骨が著しく少ない場合に有効な選択肢となり得る治療法です。しかし、上顎洞底挙上術(サイナスリフト)などの方法と比較しても、合併症のリスクを軽視することはできません。
こうしたリスクを考慮し、岡山ヒルトップ歯科では、ザイゴマインプラントを標準的な治療選択肢として推奨しておりません。 患者さん一人ひとりの骨の状態や全身状態を評価し、より安全性に配慮した治療方法を検討することを重視しています
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